傾く雨。
■「夜の魚」一部を、唐突に掲載している。
これは初稿が94年。
まだ、バブルの名残が街に溢れていた頃のお話である。
読み返すと、プロットも背景になっている諸事実や条件も、今の眼からはとても青臭く思える。赤軍やCPPなどという存在は、果たしてなんと言えばいいのだろうと。
だが小説というのは、そうした観点からだけ読まれるものではないので、手直しをせずそのまま載せている。
例えば「埠頭は鉄と濁った暴力の後味が残っている」などという記述に、某かを感じる読者がいるとすれば、それでいいのだと思われる。
■ 表現というのはそのメディアに大きく依存するもので、Web上での表記の仕方というのは紙を想定したものとは異なる。
改行や空白行もひとつの文章に近い意味を持つ。
MTが最終的な媒体だとは決して思えないが、この場合にはこうして断片を積み重ねることになるのだろう。
■ 数日前の夜半、私は表に出て車を拾った。
まだやっているだろうか、と思いながら大使館脇のホテルの酒場へゆく。
カウンターの隣には、ワインとウィスキーの銘柄を語っている大人のカップルがいて、彼はかなり大きな組織の、それなりの立場である。否応無くそうした気配が滲んでいるのだが、だからどうしたということはない。
私はその隣で、ギネスを嘗めていた。
残ったボトルを前にグラスをもらうと、若いバーテンがギネスがチェイサーですかと尋ねた。そうしたことはしないので、水にしてもらう。
乾いた豆をつまみながら、暫くぼんやりとする。
その内、小さく携帯が鳴る。