ロマンについて。
 
 
 
■ 何時だったか霞町の交差点の辺りで渋滞に入った。
 六本木トンネルが出来てから、この辺りは一キロばかり混む。
 そこで思い出したことがあった。
「麻雀放浪記」の角川文庫版の解説の最後に、どなたかが面白いことを書いている。
「技を極めることが成長に繋がるという、教養小説の一環ではある。ただ注意しなければならないのは、この小説は、技を極めることがそのまま滅亡への道に繋がっているという世界を描いたということである」(概要:文責北澤)
 
 
 
■ 緑坂の読者には説明は不要かも知れないが、「教養小説」とは、主人公が艱難辛苦に遭遇しながらそれを乗り越え、次第に人間的に成長してゆくという定型を踏むものである。
 古くは「次郎物語」「人生劇場」あるいは「青春の門」などがそうだろうか。
「宮本武蔵」なども典型的な教養小説の一環である。
 漫画の世界でも、「ナニワ金融伝」「金と銀」などが同一の文脈で語られるだろう。
 未熟だった者があれこれし、最後には成功を収めるというパターンだと考えれば大筋でブレは少ない。
 
 
 
■ 古くからネットの世界に棲んでいると、いわゆる「日記」と呼ばれているものの多くが、その文脈で語られていることに気がつく。
 儲けたこと。これから流行るもののこと。
 でもしくじって東京に負けたりしたこと。
 新しい技術はこれで、これを知らなければこれから生きてはゆけないこと。
 それを導入したのは自分で、胸を張って顔写真も出すこと。
 つまり、浮き沈みはあるにしても、結果として故郷に錦を飾ることを夢見る。
 あるいはそれまでがんばる、ということを記す場合が多い。
 現在進行形の物語なのだ。