粋と野暮のあいだ。
 
 
 
■ 吉行さんの初期の対談集に「変わった種族研究」(角川文庫)というものがある。
 スマイリー小原、野坂昭如、岡田真澄、青島幸雄、畠山みどり、殿山奉司。
 さらっと目次の一頁から拾ってくるとこんな按配である。
 
 
 
■「明日は東京に出てゆくからは なにがなんでも勝たねばナラヌ」
 と、歌ったのは巫女スタイルで舞台に立った、当時女村田英雄と呼ばれた畠山みどりさんである。
 吉行さんは、絶世期の畠山さんと対談する。
 
「最後にひとつ聞きますが、歌謡曲の歌詞には、霧とか涙とか星とか恋とかが矢鱈に出てくるけれど、そういう歌詞を本気で歌う気になりますか」
「ええ、すうーっと歌詞の中に入ってゆけます。悲しい歌だと、何度うたっても泣けてきますね」
 と言うと、彼女はにっこりと笑って、私を見て言った。
「ああ、やっと見抜いてくれましたね」
(「変わった種族研究」吉行淳之介著:角川文庫:84頁)
 
 この後、吉行さんはA4サイズくらいの畠山さんの顔写真にサインをしたものを渡され、ありがたく頂戴する。この後の文章がいかにも吉行さんらしい、ある意味で優しい、それでいて何枚もの膜があるかのような、簡潔な名文なのだが割愛。
 場数を踏んでいないとこうした文章は書けない。
 
 
 
■ ところで何が言いたいかというと、場数のことではなかった。
 山口瞳さんは「男性自身」の中で、昨日上野駅に立って、さあこれから東京を征服してやるぞと身構えている若い男が鬱陶しいということを書いている。
 その後で、そういうもんでもないのだよ、まずは肩の力を抜けよ。とも続けていた。
 上野駅(ないしは東京駅)に降り立った彼は、世の中を睥睨し、鼻の穴を広げている。
 東海林さだおさんの漫画に出てくる彼らもまた、そういった按配である。
 東海林さんは真面目な顔をして、豚のまるかじりなどを語っておられる。
 ま、いいんですけれども、つまりITの世界もなんというか梶原一騎氏の描く分かりやすい立身出世みたいなところがあるのだな、という素朴な感想を私は抱いている。