縦笛。
 
 
 
■ yominet の文芸では、当時若手の現代音楽家何人かに原稿を書いてもらっていた。
 ひとりは今もミラノにいる。他の数人は日本にいて、既にして中堅どころと言ってもいい位置で活動している。
 年に何回か音楽会の招待状を戴くのだが、デスクの前にピンで留めているにも関わらず、ゆくことができないでいた。
 半分は週末の二日酔いのせいである。
 
 
 
■ 今、藤原義江が歌う「出船」を聴いていた。
「今宵出船か おなごりおしや」
 これは文部省唱歌になったものだろうか。
 藤原義江は、オペラと恋に生きた声楽家である。
 出生とその生い立ちは複雑で、その故か日本のうたを歌った場合、微細な陰影となって顕れているように思える。
 いつだったか、JAZZサキソフォン奏者の音川英二氏が「砂山」をソロでやった時も、彼はNYで長く修行したのであるが、その中に流れる底流のようなものを感じた。
 底流とか血とか、あまり使っていい単語ではないけれども。
 
 
 
■ 縦笛を吹きながら下校したことがあった。
 初めはぷうぷうと、そのうちメロディと。
 時々溜まった唾をぬぐい、電信柱の廻りを吹きながら歩いたこともある。
 何を吹いていたのか覚えていない。
 音の出ることが嬉しかったのだとおもう。