夜に読む坂。
 
 
 
■ 緑坂は、毎日ほぼ三桁の人たちが覗きにくる。
 酔狂だな、と思うところもあるが、特に真夜中にくる方々。
 週末だと、それは二十人を下らない。
 こう書くと失礼なのだが、私は薄い苦笑いを押さえきれない部分がある。
 おそらくは軽く飲まれているだろう。
 一杯目の酒と三杯のそれとでは、やや味が異なる。
 つまりそれは、読み方にも通じる。
 
 
 
■ せんだって私は、虎の門にあるホテルのバーにスッコチのボトルを入れた。
 シニア・バーテンダーの三十代半ばの彼は「スカッチですね」と「カ」の部分にアクセントを入れる。
 彼は高校を出て、その道の学校に入った。
 背は私よりも少し低いのだが、髪を後ろに撫でつけ、十一時十分の位置に爪先を揃えて立つ。