夜に読む坂 2.
 
 
 
■ そのホテルのバーは、薄い葉巻の匂いがする。
 まだ二十歳になったばかりだろうという、灰色の上着を着た若者が、煙草なり葉巻なりの選択を手伝う。
 これは一本2000円だね、というと、よくご存知でと、少し脂の浮いた顔でこちらを見る。
 私はここは江田島かと思った。
 
 
 
■ 悪いが、このマッチをふたつくれよ。
 ということで、今私の仕事場の桜の机の上には、割り箸ほどの長さのある、葉巻会社のマッチが置いてある。
 使う気にはならない。
 彼の当番が何時なのか、よう、元気かい、と言いたいところではあるのだが、月末の財布は領収書だけで厚みを保ってもいた。