ライカのお作法。
 
 
 
■ 桑原坂のあたりを、多分結婚式帰りなのだろう、数人が歩いている。
 髪の長い若い男が、赤い皮を張ったM6限定板を持っていた。
 なるほど、皆を撮るためにもってきたんだな、と思いながら私は交差点を右折した。
 
 
 
■ カメラというのは誰にということもなく、見栄のための道具である。
 ほぼ、茶器というかなんというか。
 江戸時代のご隠居が、離れを作って詫び寂びごっこをするのとあまり変わらない。
 ライカのシャッター音は、確かに心休まるものではあるが、かといって枕もとに置いて眠る前に聞いてみる、というのは三日で飽きた。
 
 
 
■ 昨日、ホテルのバスを待つためにロビーで涼んでいた。
 革張りのソファがあって、そこに座る。
 私は500円で買ったニコンのカメラバックに、ズミルックスをつけたM6を入れ、本日は自慢してやろうと紫の絹の布、つまり呉服の端布から取り出していた。
 向かいに30手前だろう妙齢が座り、このサングラス男は何をするんだろうという具合にちらちらと眺めている。
 デジカメであればこうはゆかない。
 フィルムを入れてなかったので、空シャッターを何度か切る。
 露出とピントを合わせるのに、あれこれをする。
 で、電池が切れているのに気づいた。