浅い夢。
 
 
 
■ 吉行さんの作品にそういう題のものがある。
 週刊誌に連載されていたもので、いわゆるエンターティメント、時代の風俗を切り取りながら読者サービスを試みたものだった。
 意図的に薄められているとはいえ、注意深く読んでゆくとどこかに反骨の気配は漂っている。
 昭和30年代後半、あるいは40年代初め。
 いわゆる高度成長と呼ばれた時代の、大人のための物語である。
 その当時、例えば女性にモテルとはなんぞや、というテーマで読者の興味を惹きながら、次第に精神のありかたにニジりよってゆく。
 
 
 
■ 同じく吉行さんの短編に「流行」というものがある。
 昨日まで国体護持を叫んでいた知識人(ええと、学士とか修士にあらず)が、一夜にして民主主義を語る。赤旗を振る。
 それに対しての拒絶反応を示したのが、例えば坂口安吾であり、文藝春秋の池島さんであった。これはほぼ生理的なものに近い。
 吉行さんの「流行」という短編は、その時その時に主流を占めている思想やファッションや新しい生き方などに、ただ乗ってゆくことで自分を飾っていた女性との付き合いを、すこし遠くから眺めたものであった。
 彼女も次第に老いてゆく。
 
 
 
■ 今であればなんであるか。
 ネットの世界ではどうなのか。
 勝った犬も負けた犬も、あるいはやや負けつつある犬も。
 どうでもいいという気はしている。