江戸の坂東京の坂。
 
 
 
■ 特別湿度がある訳でもないが、空気が重い。
 いたしかたなく、仕事を続けていたりする。
 せんだって、私は銀座から有楽町、東京駅の界隈をひとり歩いた。
 夜もしばらく更けた頃合い、薄い雨が降っていた。
 かつて丸ビルがあった辺りに入る。
 入り口に案内のようなものがあり、そこに「暗闇坂・店名」と書いてあった。
 
 
 
■ なるほど、坂の名前がひとつのブランドになっているのだな、とプロデュースした方のセンスに感心したのだが、暗闇坂というのは何処にあるのか。
 実は、東京には十数個の「暗闇坂」があるという。
 というのは、「江戸の坂東京の坂」からの受け売りである。
 
 かつて、yominet の緑坂で、私はこんなことを書いていた。97年の頃合い。
 
「坂とは、山や岡に上ったり下ったりする道のことで、言い換えれば、低いところから高いところに上って行く道路、または、反対に高いところから低いところへ下る道路のことをいうのである。
しかし、いまここにとり上げているのは、その坂が名前を持っている場合であって、無名の坂、またはまだその名前がわかっていないものについては、それに触れることはしない」(横関英一:「江戸の坂 東京の坂」中公文庫:9頁)
 
 
■ 実を言うと、「祝」の画像の代わりに文庫本の表紙をスキャンさせていただこうと思っていた。
 白井晟一さんによる表紙扉には、尾形月耕「江戸見坂」の絵が使われている。
 出版社に問い合わせ、その許可を貰えば良いのだろうが、忙しさにかまけ今日まで果たせなかった。暫くしたらお願いをしてみようと思っている。
 本のデザインというのはそれ自体が既に作品で、本の内容をニョジツに顕わしていることもあるようだ。
 
 
 
■ ところで、引用した文はこの本の冒頭にある。
 声を出して読んでみると、なかなか味があるような気がする。
 あたりまえのことを真面目に書いてゆくところから全ては始まって、著者の語り口は次第に歯切れの良いものになってゆく