残夢三昧 2.
■ 山口瞳さんの「礼儀作法入門」という本を古本屋で買った。
同じ本を、これで何冊目かになるのだが、そういう気分のときというのはある。まだ御存命の頃合い、つまり私が若造だった頃に、なるほど大人とはこうしたものかと思いながら読んだ記憶がある。
■ かつて偏愛した作家の本を、一定の年齢を重ねてから読み返すのは、ある意味で辛い。
その方の年齢と、またその時代とを再確認させられるからだが、そのようなこともあって多くは小説や文芸というジャンルからひとは離れてもゆくのかも知れない。
実際、このひとの書いたものならば全て目を通す、というようなことが無くなって久しい。
■ 山口さんの遺作である「男性自身:江分利満氏の優雅なサヨナラ」には、入院中、先輩作家である吉行さんの死去を知る部分がある。山口さんの「男性自身」には、梶山季之、向田邦子さんなど、親しかったひとについて書いたものに名文が多いが、この吉行さんについての連作もそうであり、またある意味で痛切であった。
看護婦が吉行さんという作家を知らない。「夕暮れまで」というベストセラーをも覚えていない。
山口さんはその事実にショックを受ける。
それは、文芸という世界がいかに狭いものだったのかということの裏返しなのだが、活字やその他のものがなくても生きてゆける世間。
というよりも、全てのものが平らに見られてしまう世界。
つまりそれは、大手古本チェーン店で、旧くなった本が一律 105円と値付けられていることと同じことなのだと、決め付けてしまいたくなるような、些か思い上がった気分に私はなってしまってもいる。