「緑色の坂の道」vol.3887

       薔薇式。
 
 
 
■ 一杯目の酒を嘗め始めた。
 先日のシガー・バーでは、珍しくブランデーを貰った。
 安くて煙草にあう奴。
 というと二本出てきて、一本はホストクラブでよく出る奴である。
 盆暮れに貰ったこともあって、そちらはやめにする。
 
 
 
■ これは一体どうやって飲むものなのだろう。
 尋ねると、このようにしてと若い黒服が指を廻す。
 眉毛は剃ってからの方がいいのかな。
 と、すこしからかう。

「緑色の坂の道」vol.3886

 
       横浜ホンキートンク・ブルース 2.
 
 
 
■ この曲の作詞は、俳優の藤竜也さんである。
 日活でやさぐれたチンピラ役をやらせると抜群に旨かった。
 80年代の初めだろうか、煙草の宣伝でその鍛えられた背中がTVに映り、日活を知らなかったような女子大生にもファンが増えた。
 当時付き合っていた妙齢が盛んにそういうので、けっ、と思っていた覚えがある。
 20代の若造には、中年の男の口髭の意味なんてものは想像もつかなかった。
 不順、じゃね、不純だと思ったのだった。
 
 
 
■ 単に男の嫉妬なのだが、それはそれとして。
 藤さんの中年になってからの何本かの佳作を、今なかなか見ることができないでいる。
 確か北方謙三さんの原作だったが、賠償さんと競演したハードボイルド映画があって、そのラスト・シーンで主人公の藤竜也さんが車のハンドルを切る。
 想いを断ち切るかのようにぐっと廻すのだが、一瞬のタメというものが映像の間合いであった。
 
 
 
■ 間合いというのは文体に似ている。
 車はライトの四角いスカイライン。それも平凡な車種である。
 バブルの頃の日本映画というのは、当時の若い女性の髪形のように波打った装飾過多か、さわやか馬鹿な男たちが連なるものが多かったのだが、深夜漠然と眺めていたそれだけは印象に残っている。
 あらすじも忘れてしまったけれども。

「緑色の坂の道」vol.3885

 
       横浜ホンキートンク・ブルース。
 
 
 
■ 革ジャン
 羽織ってほろほろほろ
(作詞:藤竜也)
 
 
 
■ この季節、緑坂の定番のひとつで、何度か書いた。
 原田芳雄さんが歌うそれは、若干歌詞が変わっていたりして、革ジャンと叫んだ後に一呼吸が入る。
 私はといえば、これを聴いた後にツェッペリンの「天国への階段」を続けるのだから進歩がない。
 別にいいんだどうだって。

「緑色の坂の道」vol.3884

 
       Wait Till You See Her 3.
 
 
 
■ バーテンダーは性格が悪い。
 と、黒服が言った。
 確かにその通りである。
 人懐っこいバーテンダーが作った酒は、キレが悪いような気になるから不思議なもので、そういう彼は浦安に住んでいた。
 可愛い奥さんがいたりもする訳である。
 
 
 
■ あの界隈、今の時分、ベランダが赤く青く点滅している。
 フェンスの向こうはすぐ海で、自転車がすぐ錆びるという。

「緑色の坂の道」vol.3883

 
       Wait Till You See Her 2.
 
 
 
■ 二日酔いである。
 やや風邪も残っているようだ。
 私はいつも風邪をひいているという説があるが、概ねそれは正しく、画期的に元気という瞬間は、おしなべて週に15分くらいだったかもしれない。
 ぐずらぐずら。
 そんな按配20年。
 
 
 
■ 先日会合の後、ひとりで車を拾い、飲みなおした。
 いつものシガー・バーである。
 この季節、このホテルには何度も足を運ぶのだが、寄るべきところがいくつもあってなかなか一人になることは難しい。
 おつかれのようで。
 と黒服が尋ねる。んん、そうなのかなと答える。
 背中に疲れが。はあ。
 その時にはこれで。
 と軽めのシガーを薦められた。
 
 
 
■ 後から女性同伴の方が入ってきて濃い目のチーズを頼んでいた。

「緑色の坂の道」vol.3881

 
       Wait Till You See Her.
 
 
 
■ 革のシートというのは冷える。
 近県でのMTGが終わった後、後はメールだなと思いながら都心へと戻った。
 ヒーターのスイッチを入れて、尻の辺りがむずかゆい。
 流していたら、ホンダのワンボックスに煽られる。
 なんだかどうでもいいのだ。
 
 
 
■ ゴトリ。
 と音がして缶コーヒーが落ちる。
 取り出すまでに少しばかり邪魔なものが入って、これは何時からだったろう。

「緑色の坂の道」vol.3880

 
       Quiet Nights 3.
 
 
 
■ Once Upon A Summertime
 南の広い荒れた土地で、ただ子供が遊んでいた。
 父はプア・ホワイトで、一日その辺りをうろうろしている。