五七 ハインド
 
 
 
 
■ ヘリに乗り込んだ。私はヘリコプターに乗ったことがない。高いところは好きではないのだが、そうもゆかない。
 速いエレベーターのように斜めに上昇する。
 浦東公園の上空に戻った。走羽を援護しなければならない。
 低い位置で捜したが走羽の姿はない。髪の短い男もいない。小型無線機で呼んでも応答はなかった。
 半分程炎の上がった戦車の両脇に中国兵の姿がみえた。ヘリに向けて発砲してくる。
 
 吉川が上海ビールの瓶で作った火炎瓶の先にライターで火を点けている。
「こんなもの作ってたのか」
「ヘリから投げるのは始めてだ」
 ロシア人のパイロットが何かを言っている。操縦桿を引き、ヘリは上昇した。AKの銃弾で床に穴が開いた。
 火炎瓶は下まで落ちる間に布の火が消えてしまう。横転し炎上する軽車両の傍で発火したものが一本あった。
「せっかく作ったんだからな」
 吉川は葉子とともに火炎瓶を放っている。
 目の前に東方明珠広播電視塔がある。高さ四百六十数メートル、ふたつに分かれた球形の展望台、その上の部分が丁度眼前にあった。
 スポットが照射されている。展望台の窓から、こちらを指さしている女の姿がみえた。