Maple Sugar 3.
■ 男の子というものは乗り物が好きである。
例外もあるだろうが、さておき。
いい歳になっても少年期を引きずって、ああでもないこうでもないと騒いだり指先を汚したりしている。
自転車、バイク、車、妙齢。
それで人生の方向が変わることもあって、これはどうしたものなんだろう。
■ 70年代の五木さんの小説に「凍河」というものがあって、そこにBASのゴールドスターが出てくる。
単気筒の単車である。
せんだって棚の奥からその上巻が出てきて、温い風呂の中で読み返した。
線など引いてある。誰が引いたかというと若い頃の私で、バカジャナイダロウカと思うのだが、主観はともかく客観的には馬鹿だったのだろう。
ゴールドスターは当時で、十数年もの。
それが小説の中で特記されているのだから、旧車というジャンルが確立されていなかった時代だったのかも知れない。
ブルの510がサファリを走ってから何年も経ってない。せいぜいチェリーのX1が出たばかりである。
■ 小説のバイクの描写が、実際に走ったり転んだりしたことのない人の書くものだなという隙間はあるが、雰囲気はよく出ていた。
深夜の横羽線、つまり首都高速1号線を制限速度60で行ったりきたり、大井にある埋め立て地の辺りで漠然としたり、単車、オートバイの持つ魅力を感覚的に伝える描写に関しては、五木さんは本当に上手かったと思う。
私は黄ばんだ文庫本を斜めに読んで、さて下巻を捜すべきかを少し迷った。
暫くデスクの横に本を置いておいたが、何度かの電話が終わった後、トラッシュに捨ててしまう。
またどこかであうこともあるだろうと。