雨の七夕。
■ 大岡昇平さんの本をぱらぱらと捲っていた。
岩波現代文庫から出ている「戦争」という語りおろしである。
雑誌、面白半分の社長だった佐藤嘉尚さんが企画したもので、1970年の夏、大岡さんの別宅というか山小屋(とご本人は書かれている)に訪れ、三日間、五時間ずつ喋り、それを編集した作品ということになっている。
当時はベトナム戦争の末期。大岡さんは、やけになったニクソンがなにをやり出すかわからない、日本も巻き添えになって出兵するのではないかという危機感を個人的には抱いていたと書かれていた。
■ 数年前に買って手元に置いてあったのだが、取り出してくるのは久しぶりだった。出先などで数頁を捲る。
それにはやや余裕をもった設定にしなければならず、余分に駐車料金を払ったり、この場合は電車を使おうかと決めてみたり、結局タクシーに乗ってしまうことが何度かあって、「ヌシら、金もねえのに」と「紅い花」のチヨジの台詞を思い出していた。誠に遺憾に存じます。
■ 通して眺めると、大岡さんの他の作品を一通り眺めた後で読み返すべき本なのだろうという気がする。
大岡さんには「レイテ戦記」「俘虜記」「野火」など、密度の高い作品がいくつもあるが、これらを読破していくには、どこか思いつめたような意志の力と体力が必要だった。今もう一度やれと言われたら、ちょっとキツイ。
負け戦を仔細に分析した「レイテ戦記」
読んだからといって、仕事やその他生活一般が便利になる訳もなく、それで女にモテたという話も聞かないのだけれども。