高輪イエロー・フォグ 2.
 
 
 
■ 伊皿子坂の天辺の辺りには昔お屋敷があったようで、覚えているのは広い駐車場である。
 今と違い、監視カメラなどはなかった頃だから、安酒を飲んだ後などに一二度入ってみたことがある。
 一角に屋根のついたところがあって、確かシトロエンのDSが停まっていた。
 当時でも20年モノといったところだったろう。
 

 
■ 常緑樹が花をつけている六月の夜、水銀灯に照らされたDSのライトは綺麗だった。
 一二台離れたところには何だろうか。これは英車のような佇まいである。
 さすがに長く無関係の男が立っているのも気がひける。
 少し離れたところからDSのマスクを眺め、これはどういう人が維持されているのだろうと、30になろうかという私にはいぶかしかった。
 自分では随分歳を取ったつもりだったのだが、まだ浅いのである。