おまいさんらしいね、ここを貰っていくよ。
 
 
 
■ 山形に、こんな怪談があるという。
 
「庄内地方に住んでいた元三海(げんざんかい)上人は、若いとき散々悪事を重ねていた。これが羽黒の法師から諭されて即身仏になることになった。木の実と水だけで端座しつづけた。
 元三海の仏所に入るのを嘆いた女どもが数多くいた。
 中には恋こがれて最上川に投身した女もいた。この女は濡れたまま亡霊となって元三海の邪魔をした。元三海は、われはいまだ修業の身でいたらないので亡霊を鎮めることができずと高僧に女の供養を頼んだ。高僧は元三海を真裸にし、地蔵尊の姿とした。そこで高僧は筆を執り、元三海のからだじゅうにくまなく経文をしるした」
 
 
 
■ ここまで読めば大方の粗筋はみえてくる。
 
「濡れた亡霊が現れてじっと元三海の姿を見ていた。元三海は一心に経文を唱え続けた。
 女の亡霊は突然、ホホホホと笑い、おまいさんらしいね。ここを貰っていくよ、といってキンタマを強くもぎとっていった。ここだけに経文が書かれていなかったからである。元三海の即身仏にはそれでキンタマがないという」
 
「庄内地方には数体の即身仏があるが、まだ未発見のものが百を数えるだろうといわれている。元三海の行方もわからぬ」
(山田野理夫著「東北怪談全集」荒蝦夷刊:2010:50-51頁)
 
 
 
■ 小泉八雲の「耳なし芳一」のプロットが即身仏に重ねられているのだが、同書の中でこの話は、怪談というより野卑な猥談に近い。
 いつごろ記された話なのか、比較的近年だろうという気もする。
 しかし何がおまいさんらしいのか、この辺りが分かったようで分からない。