砂の岬 4.
■ ナチズムの本を再読している。
かつての青年のようで、ベタとも言えるのだが、それがどうしただろうという気もある。
「ヒトラーを支持したドイツ国民」(ロバート・ジュラテリー著:根岸隆夫訳:
みすず書房:2008年発行)というものが結構重たく、いかにも12月の夜だった。
この本の趣旨は、例えば「まえがき」の最初にまとめられている。
「通説では、ドイツ人はナチズムがもたらした『善い面』(例えば経済面)を受け入れただけであって、悪い制度は拒絶したとされてきた。ところが、ヒトラーは国民大多数からさまざまな支持を獲得することにじゅうぶんに成功していた。 総じてドイツ人はヒトラーとその狂信的通従者たちが、枠からはみ出た人びと、『アウトサイダー』『非社会的分子』『徒食者』『犯罪者』とみなすある種の人びとを排除するのをみて、誇らしげに喜んだ。
(略)彼らは大衆受けのするイメージと大衆の好む理想と、深く浸みついた恐怖性を利用して、ドイツ国民を自分たちの味方につけようと望んだのだ。
(略)国が敗北の渦に撒きこまれているというのに、ドイツ人の多くが頑強に持ちこたえられたのは、それなりの多くの理由があったからなのだ」
(前掲:まえがき)
■ 当時の新聞と公判記録を元にしている故か、一章ずつ読んでいけば文章は比較的ぶっきらぼうである。しかし、そこに省かれた内容がこちらを刺激してきて、ソファの上に横になりながら、私は酒が欲しいとは思わなかった。途中、薄く窓を開け、冬の空気を吸い込む。いっぺんに部屋は寒くなる。
クリポ。
というのが当時の刑事警察の名称である。
ゲシュタポが「国家の敵」、そしてクリポが「非社会的存在」と戦うものと名目上区分されてはいたが、非常時になれば犯罪を犯す可能性があると彼らが予断した人間を躊躇なく逮捕した。そして「中立化」「処分」「抹殺」という予防的手段を講じていったのである。
■ 本書のある意味での愁眉は、第8章「内部の敵」だろうか。
ここでは、ナチ時代のドイツでは市民相互の密告と通報が日常的に行われていたことが立証されている。
その動機は、国家のためというよりも私怨や個人的利益を得んとするものが多かった。「密告の75パーセントが、ナチへの明確な支援とは無縁か、あるいは無縁な動機にもとづいてい」た(前掲:252頁)。
密告の内容は、例えば全面的に禁止されている英国BBCのラジオ放送を聴いたとか、ナチに批判的な言説を漏らしたとか、アーリア人以外の者と性的関係を持ったなどであったが、その対象は隣人のみにとどまらない。
夫婦間、あるいは兄弟間、親戚や親子の間でも密告は行われた。
物質的な利益を得ること、感情的復讐心を満足させることが主たる目的のこの種の密告は、当時の司法大臣ティーラクやゲシュタポが度重なる警告を発したにもかかわらず、一向に減る気配はなかったとされている。
溢れんばかりの密告の洪水。
当時のドイツ市民は、たくみにゲシュタポを利用していたのである。