樹と雲。
 
 
 
■ 撮影に使う小道具を捜しにホーム・センターのようなところに行った。
 目当てのものはなかったのだが、298円で紺色の雨よけブルゾンのようなものが売っている。
 黒にオレンジのラインが入った上下を着た親方らしき男性が、ちらりとそれを眺め、指で触り、憮然としている。
 私もそれに倣い、触ってみたら透けるように薄い。
 ううむ。と唸っていると親方も唸る。
 互いに、ヘッてな笑いを浮かべながらその場を離れた。
 
 
 
■ 現場が休みだったのだろう。年季の入ったサンダルの履き方だった。
 麻布の下の辺りは冠水したと聞いている。
 台風でも地震でも、いつも誰かが亡くなる。人の世といえばそれまでだが、危ういところを渡っているような気になって落ち着かない。
 
 
 
■ 信号で待っていると、空いた空に一本の樹が立っている。
 向こうにはまだらな雲である。
 昔ならグローブ・ボックスから28ミリを取り出して一枚押したものだが、最近は眺めるだけにしている。