アブク。
 
 
 
■ いつだったか銀座裏で飲んだ。
 昔の日活映画に出てくるような古いビルの一室で、トイレは共同である。
 マスコミというかジャーナリズムというか、なんというか。
 一定の年齢の方々が自腹で飲みにくるところである。
 マスターがいたりママがいたり、口の悪い方たちは20年前がママで今は違うともいう。
 はあ、濁点付くほうですね。
 
 
 
■ そこに浅岡ルリ子さんのサインが飾ってあった。
 日付をみると案外に近いところにある。いや、劇場に出ていた時にね。
 そう説明を受けて、ここならそうだろうかと私は思った。
「フーテンの寅」の何作目だったろうか。
 初めてリリー役で出てきた浅岡さんは、既にして笑うと眼の廻りに皺がある。特に薄化粧のラストではそうだった。
 映画ではドサ廻りの歌手を演じ、網走近くの魚港で寅さんと語り合う場面があるのだが、日活で裕次郎や旭相手に思いつめた演技をしていた時とは風情が違う。
 山田監督は、北野監督のように海や港をロングでは撮らなかった。
 
 
 
■ 映画は1970年代の東京をも写している。
 リリーが母親と会う場面。どこでこんなところを見つけてくるのかというくらい、小汚い街なのである。
 スタッフは飲み歩いていたのかロケハンしたのか。それでいて注意深くストリップの看板、その上半分は画面に入らないよう計算されていて、その横に頭にタオルを巻いたサンダル履きの女が二人配置されていた。
 でも横須賀とは違う。