旅の夜風。
■ 初代水谷さんの映画には、傑作というものが少なかったといわれる。
映画のフレームに合わなかったからというのが理由のひとつだが、この辺り六世 歌右衛門も山川静夫さんとの共著で、舞台と映像との差異を指摘していた。「じわがくる」という間合いや風情を、映像で表現することは至難だったのだろう。
歌舞伎役者から映画入りした中村錦之助こと萬屋錦之介さんが、晩年近く、俺の身体にはもう歌舞伎の匂いがねぇんだ、と言われていたというが、この辺りは演劇関係の雑誌で読んだ知識である。
宮本武蔵その他、変わることで自分を確かめていこうとする風情が、錦之介の芝居には絶えずみられ、個人的には途中で息切れしたような記憶もある。
■ どんな芝居をしても、品がよくなくっちゃいけねぇな。
と言うのも、錦之介さんの台詞だった。
柄は悪いのだが、品は悪くもないという。
この辺りいわく言い難いところもあって、後から思い出しては首が伸びる次第なのだ。