通力自在の古狐。
■ 春先というのは天気が変わりやすい。
霞んでいたり、一転嵐になったり。
山口瞳さんの「男性自身」その4月の頃は、毎年その描写が見事なものだった。
頭の数行である。
通勤電車の中でそれを読みふける時代が確かにあったのだが、私自身はそれを逸した。
■ ふと気づいたのが、山口さんは鎌倉アカデミアで吉野秀雄さんに学んだことが大きかったのかも知れない。
吉野さんは歌人である。
万葉集の影響を受けたおおらかな作風で、また良寛研究でも知られている。
生涯貧乏であったとされるが、歌人や詩人で豊かだったという人をあまり聞いたことはない。
■ 義経千本桜に、不思議な狐が出てくる。
一匹だったり集団だったり、桜吹雪のなか忠信などと切り結ぶ。
花吹雪の吉野「蔵王堂花矢倉の場」はケレンたっぷりの仕掛けだが、どうも最後は静御前が狐の里に入るのである。