おかねをいれてくれ 3.
■ 品川駅近くにあった古いホテルの二階が私は好きだった。
ここはかつて河野典生さんの推理小説というか、個人的には半ばハードボイルドだと思っているのだが、その舞台になったことがある。
裏は急な坂道。小さな酒場があり、東海道から江戸へ入ったとたんのモダニズムという風情があった。
酒の味は、私がいった頃にはどうということもない。
とんかつは、上野よりは旨いが、ただそれだけである。
■ いつの間にか立て看板が立ち、ロックアウトがなされ、どうしたものかなと眺めていると警官隊が執行している。
ビラを持った男たちが並んでいる傍を、無関心に勤め人の男や女たちが通る。
私も時にはその中の一人だった。
電車で移動する際、滅多に品川で降りることはないのだが、なんとはなしに素通りをしていた記憶がある。