低い月。 
 
 
 
「よお」
 と挨拶すると、葉子が指をさした。
 まだ低いところに赤と茶色の月があった。
 大きくて斑な模様がはっきりとしている。
 上の方が欠け、ビルの間から昇ってきている。
「この世の終わりみたいだね」
 葉子がそんなことを言う。
 横を向くとタワーが立っている。
 一番上のところだけがみえなくて、晴れてはいるがガスが出ているのだとわかった。
 空の上も風がないのだろう。 
 
 
 
■ タワーというのは、今回の震災で先端が曲がったというそれである。
 目黒または天現寺から首都高に乗ると、次第にそれは近づいてくる。
 高層ビルは増えたかもしれない。
 私は、ちらちらと白髪が混ざってきている。