暗闇のDB7.
 
 
 
■ 東京は今暗い。
 一定の時間が過ぎると、街の半分は闇の中身である。
 ひとり歩きでは危ないだろう、と、睫を表ざたにした彼女をみていて思った。
 
 
 
■ 桜田通りを走っていると、前にケルビンの違う小さなテールがある。
 アストンだ。
 薄いメタリック。
 暗闇の中を結構な速度で都心に向かっている。
 新しいそれではなく、多分直6のそれだろう。ジャガーXK8とプラット・フォームが同じだと、細かなスィッチの類が量産品だと揶揄されたものである。確かにインパネのデザインは少し田舎臭いのだが、元々英国車というのは僅かに野暮なところがいい。
 
 
 
■ 私はつかず離れず、暫く後をつけた。
 彼か彼女は、時折ひっぱっている。
 私もまれに4000まで廻し、煽るでもなくそのテールを眺めていた。
 ちりちりと、こうして走ることが許されないのだと知っている。