三六 津軽
 
 
 
 
■ 起きると頭が痛かった。
 真壁の持ち込んだスコッチを半分程空けたのだからやむを得ない。
 一日、上海大厦の部屋で何もせず過ごした。
 
 何時だったかこのホテルでアヘンを吸ったことを思い出す。
 酒とアヘンとどこが違うのか、そんな気分にもなっている。
 夜になって、私は真壁が渡した資料を読み始めていた。そこには覚醒剤にとどまらず、麻薬一般についての簡単な説明があった。
 中国の雲南省、タイ、ラオス、ミャンマーに隣接した高原地帯は「黄金の三角地帯」と呼ばれ、年に三度ケシの花の栽培が可能だとされている。
 ケシの未成熟な果実と茎のあいだに傷をつけ、そこから分泌された液体を乾燥させたものがアヘンの原材料となる。天然に得られたものの四分の一程度が薬物としての効果を持っている。
 内部に含まれた二十種類程のアルカロイドのうち主要な成分はモルヒネであり、モルヒネに塩化アセチルを化合させてつくられたものが半合成アルカロイド、ヘロインである。ヘロインはモルヒネの十倍の毒性がある。
 日本では一八三七(天保八)年、奥州の津軽地方で始めてケシの栽培とアヘンの製造が始められ、ツガルとの呼び名で残った。
 「黄金の三角地帯」におけるケシの栽培は主としてシャン人によって行われ、それを指揮するのは、クンサーを指導者とするMTAである。クンサーは民族独立運動の指導者であるとともに麻薬王でもあった。自動小銃、地雷で武装した二万五千の軍隊が常駐している。
 また、中国におけるエイズ患者の多くは隣接した雲南省に集中し、そのほとんどが麻薬常習者であるとされている。静脈注射による感染が主な原因なのだろう。毎年、雲南省では二百五十人からの麻薬密売者が死刑になっていた。