■ 北沢は捕まらなかった。
 ポルシェの中には上着だけがあり奴の姿はなかった。
 夜の海を泳いだのだろう。
 葉子が持ち出したフロッピーには、人名と販売経路の一部が残されていた。
 北沢が口を滑らせたように、現役の閣僚に連なる名前もあった。勿論、捜査はその段階まで及ばなかった。北沢を捕らえることができない以上、情況証拠だけでは無理なのだ。
 中国本土とロシアの辺境から香港を通る麻薬ルートは、その一部が休眠状態となっただけで今も健在である。
「公洋貿易」という会社は一年も前に登記が抹消されていた。
 事務所も空であり、机と外された電話だけが残っていた。
 現在、日本に残るCPPのメンバーは宗教団体の非課税の部分に眼をつけているという。背後に仕掛人がいるのだろう。科学や超心理などの名目をつけ、終末論と来世の繁栄をうたう幾つかの新・新宗教は人間の受動性の部分を巧妙にくすぐっている。本部の指導を離れ、一層過激となったスパロー・ユニットの一部はまだ日本に潜伏したままである。 
 ともあれ、何かが終わったとも思えない。
 始まったという訳でもない。
 吉川は相変わらず晃子を口説いてはフラれている。
 怒られることを楽しんでいるようでもある。
「とうとう官憲の手におちたな」
 と、警察病院のベットに寝ている私を見下ろしていた。
「俺は自由な個人として協力しているまでだ」
 奴が奥山を連れてきたのだが、何処まで知っていたのか今となってはどうでもいいのだ。