■ 女ふたり、男のことを話す以外に何がある。
 あのとき私は吉川と倉庫の階段に腰掛けていた。
 小さなステンレスのカップでウィスキーを飲み、吉川の話を聞いていた。はじめ、葉子は晃子に会うことを嫌がった。
「彼女は他人の心が読めるようだわ」
 晃子が三杯目を注いだ。
「どうして別れたんだ」
「だから、わたしが浮気をしたのよ」
「シャクだから傍にいた男と寝たの」
 
 シャク、という言葉を今日はよく聞く。
 便利な言葉のような気もする。恨みがある訳でも流しているのでもない、その合間を縫ってサラリと言う。
「気持よかったか」
「すこしね」
 晃子の前の夫は真面目な勤め人だった。
 杉並に部屋を買い、週に一度は夫の実家に戻って食事をするのが習いだった。
「べつにね、マザコンって訳でもないの。大事にしてくれたしね」
 小さな灰皿を机の脇に置き、晃子が細い煙草を吸った。
「寝室があってね、そりゃ新婚だから。彼が念入りに手を洗っているの、済んだ後でね」