二〇 一月
 
 
 
■ 一月は乾いた空と時折の雨で始まった。
 入院していたせいで仕事が溜まっている。私は誰もいない事務所で二つのディスプレイを眺めていた。灰皿がいくつか山になった。通りが静かになって夜が過ぎ、気付かないまま新年になっていた。
 雨は思いだしたように降り、すこし経つとすぐにあがった。空気は乾いたままだ。
 連休の前日、私は同じように深夜まで画面を眺めていた。
 すこし歩き、車を拾って部屋に戻った。あれ以来、自分の車にはほとんど乗らなくなった。ヒーターがうなるのを待ち、薄いコーヒーを入れようとした時、電話が鳴った。
「あら、いたのね」
 晃子だった。
「去年のイブの夜ね、北沢から電話があったわ」
 微かに躯がこわばるのがわかった。
「近いうちにまた顔をみせてくれ、って言うの」
 北沢は生きていた。サーブは北沢のものだが、運転していた男の肌は褐色だった。
「声を覚えているのか」
「そりゃね」
「彼女、葉子さんは今どこにいるの」
「今は実家だろう、住所まで聞いた訳じゃないが」
「どうしてあなたって誰にでも一定の距離をとろうとするの」
 晃子はすこし苛立っている。時計をみると午前三時に近い。
「眠れないのか」
「そう。また無言電話があったのよ」
 私は冷たいベットに腰掛け、晃子の話を一時間程きいた。
 イブの夜は、退院した吉川が銀座の外れで食事を奢ったのだという。吉川はまだ酒が飲めず、晃子がなにやら高いワインを一本飲み干した。
「送らせて欲しい、って真面目な顔して言うのよ」
 ドアの前の情景が目に浮かぶ。帰る姿も。
「部屋に戻って着替えていたら電話が鳴ったの」
 それが北沢だったのだ。
「わかったよ、午後になったらゆくから」
 そう言うと、上着だけを脱いで眠りに落ちた。