■ 何日か過ぎた。
 私は自分の古い車で芝浦の桟橋にでかけた。
 出来ていないビルがあり、その前は浮き彫りの商標が描かれた平たい倉庫になっている。痩せた五十がらみのガードマンがいて、近づくと赤い電灯を彼は左右に振る。
「寒いね」
「そりゃ、雨だからね」
 階段を昇ると狭い海があって、向こう岸にはガラスのようなものが光っている。
 あの夜、薔薇の花はロシア大使館の前の制服に預けてきた。
「いやでしょうけど」
 というと、くすんだ笑いを浮かべ、私が何者なのか調べることもなかった。