■「今日の朝、警察の者だといって、男と女がきたのよ。帳面をひらひらさせるからドアを開けると、そのまま入ってきたわ」
「女の方は二十七位、色が白いから中国系にもみえたけど、顎の線の綺麗ななかなかの美人だった」
「男は三十代後半、傍によるとそれがわかったの」
 黒い筈の瞳が蒼くみえる。髪は乱れたままだ。
「男は細いナイフを出して、わたしを裸にしたわ」
 晃子は立ち上がり、ガウンの胸をはだけた。
 
 首の下から乳房のまるみを過ぎた辺りまで、二本の赤い筋がついている。胸の真ん中でそれは交差している。血痕はほとんどなく、そう深いものではない。
 後ろをむく。同じものが背中にもあった。こんどは背骨に平行に走っている。
「葉子は何処にいるんだ、と聞きながらゆっくりナイフでなぞってゆくのよ」
「女はそれをみていた」
 背中には肉がつきはじめていた。記憶の中に疼くようなものがあった。
「男は北沢と名乗っていた」
「またくる、と言ってそのまま帰ったわ。御丁寧に女が煙草の吸い殻まで持ち帰ってね」 ソファに座っている晃子の脚がぶらりと揺れた。長くヒールを履き続けた小指の爪が潰れている。
「コーヒーでも飲もうか」
「そこにあるわ」