■ 細い路地を抜け踏切を越えた。下北沢の劇場の地下に車を入れた。
ネオンが並んでいる。その前に若い男女が座り込んでいる。自転車のサドルの上で口を吸っている。
すこし歩く。駅から五分ばかりという。確かここだ。
マンションの下にある公衆電話で晃子の部屋にかけてみる。
応答はない。三度繰り返した。不思議な予感がする。不安が這いのぼってくる。
エレベーターに乗った。鍵を持っていることを思いだした。チャイムを鳴らし二分程待った。返事がなく、鍵を開けてみる。玄関のつきあたりから右に曲がった小さな部屋に彼女はうずくまっていた。
ふりむく。
年齢より五歳年をとってみえた。尋ねても答えない。
のろのろと立ち上がり、小さなソファに座ると、
「あなたって、大事な時にはいつもいなかったわね」
と、低い声で言った。