■ すぐに暗くなった。
私は事務所に電話を入れ、母親が危篤で戻っていると言った。男と暮らし始めた事務の娘が声を出さずに笑った。思いつき、自宅の留守番電話を聞いてみる。床を拭くモップ交換のお知らせと電話料金の催促、そして晃子からの伝言が入っていた。ここ数年、自宅に電話などはなかった。
「つけられているようだわ、怖いのよ」
時刻は午前一時過ぎ。多分昨夜だろう。私は東京に戻ることにした。その前に葉子に聞かねばならない。
「あの吉川という男は何なんだ」
「どうしたのそんな怖い顔をして」
「知ってる女が危ないんだ」
「恋人なの」
私は答えなかった。黙って葉子をみていた。葉子が口を開く。
「吉川はね、羽田闘争の時に捕まったの。それを父が助けたのよ」
「羽田闘争だって」