■ 坂の終点で料金を払い、暫く走って葉山の海岸に車を入れた。
海自体は静かであり、軽い鉛のようにもみえた。葉子は煙草を欲しがった。二口ほど吸って溜息をつく。
「触ってみて」
胸元から手を入れると油を塗ったように湿っている。
「いったいどうなってんだ」
私たちは車を降りた。雲の影から月が出ていた。折れたのは安っぽいバンパーではなく、突き出したマフラーだった。くの字に曲がって垂れ下がっている。
「CPPっていうのがあるのよ」
「なんだって」
フィリピン共産党を名乗る武装集団がある。
もともとは一九三○年に創立されたフィリピン共産党、PKPに端を発する。PKP自体は非合法とされながらも当時の米軍ないしは日本軍に対し、ゲリラ活動で抵抗を続けていた。
しかし、戦後のCIAによる弾圧の中で、PKP自体は旧ソ連にならい、マルコスとも手を繋ぎ国民の支持を失ってゆく。一九六八年、シソンを中心として新しいフィリピン共産党、CPPが再建される。毛沢東の誕生日、十二月二十六日のことだった。
葉子はそこまでを一気に話した。
「習ったのか」
「調べたのよ」
「それがなんでランクルなんだ」
「CPPは日本にも入ってきてるの。CPPの武装組織がニュー・ピープルズ・アーミー、NPAというのよ」
「さっきのランクルがそうだっていうのか」
「そう、CPPは毛沢東思想に固まった暴力革命を至上とする組織なの」
「革命だって」
「そうよ」
月が隠れ、私には葉子が遅れてきた紅衛兵のようにみえた。