■ その夜、私は葉子からいくつかの話を聞いた。
 歳は二十三の終わりで、実家は藤沢と鎌倉の間にある。神奈川県の丘陵にある四年制の女子大に籍があるという。家族については言葉を濁していた。私も聞かなかった。
 トカレフについて尋ねることはしなかった。どうしてか、今はその方が良いと思ったのだ。曖昧なかたちのまま夜は過ぎてゆく。
 シーツに、何かきらきらしたものが残っている。銀色の鱗のようだ。葉子は私のパジャマの上だけを羽織っている。
 
「従軍慰安婦って、知ってる」
「ああ」
「そうした問題を扱うサークルに入ってたの」
「ボランティアか」
「そう馬鹿にしないで。裕福だから考える余裕もあるんだわ」
 葉子は週末まで部屋にいた。乾燥機の使い方は覚えたようだ。私は仕事にでかけたが、サイズの違う靴を履いているような気分だった。すこしづつ部屋は整理される。布団も干されている。機械の廻りと机の上はそのままになっている。
「電話があったのよ」
「でるとね、あなた誰、と聞かれるの」
 葉子はピル・ケースを開けている。台所でわからないように後ろを向いている。なんなのだ、と尋ねると、
「アップジョン。眠るためなの」
 と、答えた。