十二月の雨。
■ 九月にも雨は降った。
十月にも、十一月にも、雨は、それが定まったことわりであるかのように降っていた。
九月の雨は、夏の名残を洗い流した。歌の文句にあるように、九月の雨は肩口に冷たかった。
十月はよく覚えていない。
十月はふたつある。という漫画があったが、その作者は吉祥寺に住んでいる。
十一月になると秋は切実になってくる。
空が少しづつ高くなり、風が尖り始め、ビルとビルの隙間が赤く染まるようになってゆく。
■ 途中、代々木の公園で車を停め、雨に打たれているツリィを暫く眺めていた。
この時間と雨では、見上げる人は誰もいないというのに、点滅を続ける姿はなにか感じのあるものだった。
君は冬の夜の水銀灯を見上げたことがあるか。
私は見上げた。
ちちちっ、と小さく音を立てながら、冷たく、堅く、それでいて脆く、その下に立てば、物みな苛酷な翳を帯びる。
私は、十二月の雨の夜の、くぐもった水銀灯のような気分だった。
「暖かいけど、そうかしら、泣かせるって程でもないわ」
帰り際、彼女は私の手を取ってそう言った。
○緑坂 vol. 446