さわやか馬鹿。
 
 
 
■ 高い腕時計をしている体育会系の不動産屋とあれこれしたことがある。
 君さ、ここはこうした方がいいんでないかい。
 はい、それはその通りで。
 ほれ、メモしないでいいのかい。
 国土交通省の基準に従うっていうけど、そのソースは具体的には何処なの。
 それはですね、国が定めた基準のひとつで。わかりません。
 
 
 
■ ヒルズ近くの、わりかし有名な不動産屋さんの受付には、アイドルになりそこねたという妙齢半ばくらいの方が二三人たむろしていた。
 彼女達は車と背広で客を値踏みした。
 うちの会社はプロダクションもあるんですよ。
 ナルホド、サヨデッカ。
 と、互いに缶コーヒーを裏手の駐車場で飲んだのが数年前だ。
 彼は新しい天地を求めると言って転職をした。
 北澤さん、辞める時には連絡をしろと約束したんで、今電話してます。
 と、彼の携帯からあったのが数ヶ月前だった。
 落ち着いたら飲みにゆこうぜ、と言うと、営業だった彼はありがとうございますと言ってそのまま姿を消した。
 爽やかにはなりきれなかったが、バブルの頃の20代よりは心に残る。
 その時計でさ、スーツ3着買えるよな。
 と、ずっと思っていたが口にしなかった。