- BREAKFAST AT TIFFANY'S -
    ドライベルモット。
 
 
 
■ NYの街角にはいくつものバーがあって、そこには一癖もふた癖もある親父がいるという。
 私は馴染んだことはないが、ヤンキーズの試合ならテレビで見た。
 彼らは雇われている訳ではなく、結構勝手にやっているものだから、その歳まで独身だったりすることもある。パリ解放と等しく、離婚していたのかも知れないが。
 1956年ジョー・ベルは67歳だった。
 ホリーがアフリカ、東アングリアにいたのかも知れないという噂を聞き、ポールを呼び出して作った酒が「ホワイト・エンジェル」である。パーティパンチとは異なる。
 ジンとウォッカだけでつくるのか、それでどうしろというんだ。
 
 
 
■ どうもしない。
 ただ酔えばいいのだという気分の時、マティニに入っているオリーブが邪魔になることが時々ある。
 ジャック・レモン主演の「アパートの鍵貸します」の中で、時間の経過をはかるのに、オリーブを刺してあった楊子を並べる場面があって、つまりはまあ、泥酔ですな。
 今回「ティファニーで朝食を」を再読すると、ところどころに酒と煙草、多くは葉巻だが、が効果的に使われていることに気がついた。
 マティニを三杯飲んで随分と千鳥足になっている場面。マンハッタン。軽くバーボンを注いでいるところ。お祝いにはシャンパンで。
 仮にシャンパンが余ったら、葡萄酒のかわりに肉料理に使うといい。クリスマスにあける、安手のものでは味が出ない。消えてなくなりそうなものほど、無駄があってもいいのだろう。
 
 映画の中で「私」こと売れない小説家ポールは、妙齢本格派の燕のような設定になっている。何で食べているのか、そのリアリティを出そうとしたからだろう。
 ポールを演じたジョージ・ペパードは当時33歳。
「ローマの休日」のグレゴリー・ペック程の背丈と見た目の知的さには欠けるが、笑うといかにもハリウッド伝統の色男として、オードリーのエスコート役には相応しかった。
 彼もアクターズ・スタジオで演技の勉強をしている。ロマンスからハードボイルドまで、演技の幅は広い。
 服装の好みもよかった。
 例えば原作で、ポールがブルックリン近くで地下鉄に乗っているという記述がある。
 就職の面接に出向き、それがはかばかしくなく、また43年というのは第二次大戦の最中であるから、ふらふらしている男には徴兵の声もかかっていたのだ。
 プレスの効いたヘリンボーンなど着れる訳はないのだが、そこは映画の世界であろうか。まずは絵にならなければ仕方がないのだ。
 
 
 
■ ここで緑坂妙齢読者のために薀蓄をすこし。
 マティニとは、いわゆるカクテルの中の定番と言われるもので、「マルチニ」「マティーニ」「マテニ」など、いくつもの発音がある。
 基本はジンとドライベルモット。
 バーテンダーというのは、客の顔をみて作るものであるから、放っておくとジンはその店で何時も使っているものになる。ベルモットも同じだ。
 貴女はそういうことはないと信じているものの、甘いそれが次第にまとわりつくように感じた場合、まずはベルモットの銘柄を変えてもらう。
 どれ、と商品名を口にするのは品がないので、すこし甘くないものなどと言う。
 それで、イタリアのものではない緑色の瓶が出てきたらその店はとりあえずである。
 ジンは何にしますか、などと聴かれても、レディは答えてはいけない。
 まして「ジンの濃縮くれ」などと言ってはいけないのである。