風の吹く町。
■ 街と書くのと、町とではニュアンスが違う。
どう違うのかと言われると、上弦と下弦の月のようである。
随分と昔、殺風景な港町に泊まった。
夜汽車でというロマンチックなものではなく、高速を降りて暫く走っていてうんざりしたからである。腹も減る。
駅前に定食屋があり、そこで親子丼を食べた。
旅に出たら、親子丼が無難であると読んだ覚えがあったからだ。
卵が水っぽいのはどうしてなのかと考えたが、つまりは出汁のせいで、これなら鶏肉でなくて魚肉ソーセージの方がいいだろうと思った。
■ カツ丼の大盛りとビール。
という頼み方をすると、今出てきたばかりかと間違われるのだという。
確かにそういう地域もあって、注意深く眺めていると警察署の近くにはひっそりと営業している食堂がある。長い塀の続く一見工場のような場所も同じである。
何時だったか女子大生と車で走っていて、あ、ここは三億円の場所だな、と呟くと、え、なにソレ、わたし生まれてないとか言いやがった。
そりゃ君、就職のため日経しか読まないからさ。
意味わかんない。分かるわけない。
■ 風の吹く港町で、一晩を過ごした。
定食屋で、泊まれるところはないかと聞いた上でのことである。
兄さん、東京からかね。と、土地の訛で尋ねられる。
仕事は何をしているのかね。
なんと説明していいものか迷ったのだが、当時関わっていた雑誌の本社の名前を出して曖昧に答えてみた。