花電車。
■ カメラマンのやや年の若い友人二人から、花電車のビデオを撮るのでそこに出てくれないかという話があった。
プダラのサングラスをかけ、和服を着用し、ふむふむいやはや、サヨデッカ、という按配でそこにいてくれればいい、という。
舞台は東京郊外のある地主の家。
ごたぶんに漏れず、そういうところの嫡男というのはロクなことをしていない。
■ 彼らはプロであって、名前を出すと驚くような仕事をしている。
一人はスチール。ひとりは動画の分野では相当なものである。
ま、それはいいんだけど。
確か何処かに、ウールではあるが和服が仕舞ってあって、羽織だけは絹だったろうか。 若い頃、それで首都高速に乗り、女のアパートに通っていたことがあって、馬鹿ではないかと思うのだが、そのようである。
袂から財布を出したりする。料金所のオヤジが驚いた顔でこちらを眺めるのが楽しかったんだから、児戯みたいなものであろうか。
■ ビデオは日本ではDVDにせず、フランスの方へ流すのだという。
だから面が割れないっすよ。
ちょっと待てこら、昔の野坂昭如さんみたいなことさせてどうすんの、とは思ったが、彼らは野坂さんを知らない。
ここで読者のために説明を加えると「花電車」とは、人生の出入り口付近で行う我が国伝統のお座敷芸である。色は問わない。
卵であるとかバナナであるとか、沢庵、はちと無理か、そのようなものを切ったりしてみせる。水を吸い上げたり戻したりもする。
それでどうにかなるのか、と言えばどうにもならないのであるが、男たちはすごいもんだなあと言って感動する。
暫くたってから、心細くもなって、お袋の顔が浮かんだりするという話だ。