ひじき煮る 2.
 
 
 
■ 月が満ちてくる頃合である。
 虫も低い声で鳴いている。
 都心でそんなことがあるのか、と尋ねられると、穴場のようなところもあるのだからうかうかできない。
 私はホテルの庭に出てみた。ライトアップされてなかなかのものに見える。
 そこでシガリロの封は切らない。
 かつて、眠狂四郎の作者、柴田さんは高輪の坂道の辺りに住まわれていた。
 高輪詣で、とか言って後輩の作家達が集まったりもしたという。
 これは泉岳寺が近いからで、吉行さんも堀部安部衛について、一冊ものにされている。 
 
 
■ 柴田さんのお住まいから、坂道をうねうねしてゆくとホテルがある。
 この系列のホテルは食事がいまひとつなので有名だが、ここだけは例外的に風情があって、とりわけ庭が適宜歩ける。私は最寄の駅で降りると、このバーで一杯を飲んで帰ることがままあった。
 そこのバーテンダーと何時だったかカクテルコンテストでばったり会って、向こうもこちらを覚えていたりした。
 佐藤まさあき さんの貸本劇画に出てくるような感じ、と言えば分かるだろうか。
 また顔を出さないといかんなと思いながら、ひじき煮ている。