それよりすこし寒くなった 2.
 
 
 
■ 谷崎潤一郎に、上海の水路、つまりはクリークに浮かぶ美女をモチーフにした作品がある。例えば「西湖の月」という作品は、上海界隈に網の目のように張り巡らされた水路に、ぽっかりと白い顔の女が浮かんで流れる様を描いていた。
 上海は何処か、水の都でもあった。
 
 
 
■ 今にして思えば、「冴」という元人妻で野鶏が、本作品の水路であったような気もする。主人公は夫に裏切られた野鶏を買い、同じように人生の根元を背骨から折られたかのような元紅衛兵の「走羽」と、夢のような市街戦に突入してゆく。
 それは、女を通しての奇妙な友情である。
 絵空事といえばその通りなのだが、今これを書いているとガラスに雨のしずくが数本走った。