動機は女だ。
 
 
 
■ 簡単に言えばそういうことになる。
 古今東西、物語というのはそれでいいのだと思われる。
 
 
 
■ 95年当時、シトロエンDSというのはそれほど一般的ではなかった。
 確か碑文谷にある車雑誌の会社が特集でとりあげ、それから都心でも数台を見かけるようになったと記憶している。
「怪盗ファントマ」というB級映画があったが、そこでDSがイタリアのパトカーとバトルを繰り広げる。当時のイタ車のパトカーは、弁当箱と呼ばれたアルファである。
 どちらが勝ったかというと、そこは映画であるからフランス車のDSであった。
 60年代はまだ、第二次世界大戦の傷跡が製作者の中にも檻のように残っていて、例えばイアン・フレミングの007シリーズの原作には、アストンマーティンとフェラリーの対決が見られたりする。
 つまり、車に国旗を付けて走っていた時代である。サテーィズが乗ったホンダもそうだった。
 
 
 
■ ハードボイルドの範疇に入れていいのか「深夜プラス1」という小説にも、DSが登場している。レジスタンスの生き残りの主人公が出てくるエンターティメントの名作である。ギャビン・ライアル著。優しい殺し屋が登場したりする。
 つまり95年当時の私は、それらを模倣しながら、ある種分かりやすい文法に従って本作を書いていたことになるのだが、ま、そこは流れで。