指揮者の横顔。
 
 
 
■ 先日、指揮者の井上道義さんと大友直人さんの対談の撮影を頼まれ、都内某所にある井上さんの隠れ家にお邪魔した。
 井上さんは新日本フィルの音楽監督などを歴任。大友さんは22歳でN響を指揮してデビューした後、現在は東京交響楽団正指揮者、京都市交響楽団常任指揮者。
 46年と58年生まれと、ちょうど一回り違う先輩と後輩の間柄である。
 
 
 
■ 私は東京駅前で編集者を拾い、そのまま首都高に乗った。
 下道もいいのだが、渋滞がない場合には上の方が確実である。
 前の日に周囲を下見していたので、車を入れるならばここ、という按配なのだが、隠れ家のマンション前には矩形のスペースがあり、そこに入れされていただく。
 撮影は銀塩とデジタル。
 デジタルもAD(アート・ディレクター)の指示で、sRGBに設定する。
 シャープさもやや緩め。色のモードも比較的鮮やかな方を選ぶ。
 ストロボを横に配置して、白いライトボックスをつけ、段階露出で幾枚も撮るのだが、ポジを一種類しか持たないことが失敗であったと気がつく。
 F2.8の80-200で背後をぼかし、アップで撮ろうとするとシャッターが降りないのである。停まっているものならばいいが、人物ではそうもゆかない。
 カメラを三脚から外し、後はデジタルに切り替えた。800と400のISO。
 質を量でこなそうという腹つもり。
 
 
 
■ その世界で一流と呼ばれる方の話は、脇で聞いていても魅力的である。
 また、人に見られることが仕事であるから、その立ち居振る舞いにも不思議な華があった。その華と支える影を、どれだけ写しこめたかというと甚だ心もとない。
 何時の間にか私は、お二人が話されているソファの前にしゃがみこみ、24ミリを覗きながらにじり寄ったりしていた。
 井上さんに「北澤さん何撮っているの」と聞かれる。
「いえ、下から迫力を」などと答えていたのだが、今考えると極めて赤面ものである。
 その絵は、没だろうなあ。