春雷 2.
 
 
 
■ 目の前を大型のスクーターが走る。
 先にゆかせようと、私はアクセルを緩めている。
 何時の間にか、守るものができてきているのだろうか。
 その通りなのだが、さてそれは何なのかと自問した。
 
 
 
■ 春先というのは様々なものがまだ定まらない。
 ゆきつ戻りつしながら、季節が移るのだけれども、自分の腹だけは決めておかなければならなくて、さて何処に着地しようかとも考える。
 譲れないものがあったとして、それは自分がこの姿勢で居られるかという根幹に関わるものだったりする。
 今まで、数えるとそうした場面というのは何度かあった。
 負けることもあり、そうでないこともいくつかはある。
 全く、小説がハードボイルドだとして、日々の凌ぎってのも案外にそうなのかも知れない。
 私は普段よりも慎重に車を転がす。
 青山墓地界隈で、少しばかり花の気配もあった。
 
 
 
■ 夜半、一通のメールが届いた。
 一番嫌な役割をまわされた立場のひとからで、まだ会社にいたのである。
 ほぼ泣いていたのではないかと思われた。
 その夜、何が起きていたのか大体の想像はつくのだけれども、こちらの気持は静まる。 そして、一杯の酒を嘗め始めた。