東京の屋根の下。
 
 
 
■ 鼻にかかった声で灰田勝彦さんが歌う。
 灰田さんは戦時中、戦意高揚の映画などにも出ていたが、彼ほど軍服の似合わない男はいなかった。
 戦争したくないなあ、という本音の一部が滲んでいたように思うのは、後の時代の穿ちすぎなのか、何時だったか美空ひばりさんの古いグラビアで、子役時代のひばりさんが灰田のおじちゃんと対談をしている。灰田さんは野球に凝っていて、自分のチームを持ったりしていた。ひばりさんの歯並びはまだ悪い。
 
 
 
■ なんにもなくていい 口笛ふいてゆこよ
 確かそんなことを言う。
 日比谷の辺りは焼け野原で、ごろごろとリヤカーが動く。
 それから10年少し、「銀座の恋の物語」のオープニングで、路面電車とともに裕次郎が人力車を牽く。
 車など指折り数える程しかいない。