みんな歌いながら通り過ぎる 2.
 
 
 
■ いつもいる呼び込みはいない。
 角に立つ、花売りのおばさんや、お兄さんは健在である。
 この季節、銀座は周辺からこられた市民の方々で溢れる。
 いわゆる、日本の近代と、そこから生成した中産階級と呼ばれる方々が折にふれそぞろ歩きをする場所とも言えるのだろうか。
 
 
 
■ 神戸で生まれたというバーに連れてゆかれた。
 銀座駐車場の界隈で、地下に降りてゆく。
 擦り切れた絨毯の階段を降りると、典型的なドアがあり、その中はスタンドである。
 いくつかスツールがあるのだが、背広と上着姿の男たちで一杯だった。
 自腹で酒が飲めるという場所は、勤め人や自営の立場の人間にとって貴重だと私は思っている。経費で飲む酒とは味が違うのだ。
 いやいや、時期が悪かったですね。
 と、言いながら先輩に従う。
 暫く、ロクデモないことを言いながら歩く。
 
 
 
■ この場合の先輩とは、学校や会社のことではない。
 折に触れお世話になって、いわゆる同じ釜の飯を喰い、割に合わないことをやったという、占領下フランス、レジスタンスの同窓会みたいなものだ。
 あれから何年も経ち、研究者だった方が助教授になり、私が写真家やデザイナと名乗っている。
 なんだよ、助教授になったのかよ、よかったなあ。まだ床で寝てるのか。
 彼の部屋は本に埋もれ、時々靴を履いたまま寝ていた。