悪いが降りる。
 
 
 
■ 緑坂は潔癖である、と古くからの読者に言われた。
 あるひとは、30代家庭の主婦を仮想敵国にしている、ともいう。
 そうだろうか。
 いいのだけれども。
 
 
 
■ 感覚というのは突き詰めてゆけばある種のモラルとか規範になってゆく。
 ここまでは許せるが、ここからは少し待ってくれ。
 先日、白金台の駅から地下鉄を待っていると暫くの間が空いた。
 長い待ち時間がある時間帯で、このままでは約束に間に合わない。
 私は一回ホームから出て、外でタクシーを拾う。
 
 
 
■ 新人ですがよろしいでしょうか。
 運転手がそういう。
 新宿まではどういけばいいんですか。
 割と急いでいるんだ、そういうルートで。
 ええと、山手通りでいいですか。
 車にはナビが付いている。最近、道が不得手な運転手向けに、装備する会社が多いのだともいう。山手通りは反対側でもあった。
「悪いが降りる」
 私は車を降りることにした。
 これで彼が傷つかないか、どう思うのか、片隅でちりちりするものはあったが、ここは東京だ。
 別の車を拾う。