月が隠れる。
 
 
 
■ なにか意味のある仕事の場合、ゆきつもどりつをする。
 焦る気分もあるのだが、最近では慣れた。
 簡単に手に入るようなものは簡単に掌からも零れてゆく。
 
 
 
■ 暫く無駄のようなことをしていなかったので、何かが煮詰まる。
 無駄とは、例えば浅草の連れ込み宿などの風呂に入り、することもなく現実逃避をしているようなことである。女がいてもいなくても良い。
 仕事も私生活も、なかなかそうもゆかなくなっているのだが、緑坂の基本は列の外からの眺めであって、そのために片足を列の中に入れている。全部入るとこんどは視えなくもなるからだし、大体躯のどこかがそれを拒絶してしまう。
 
 
 
■ 細い虫が鳴いていて、雨はあがった。
 暑いのか涼しいのか判然としない一日だった。
 私は何本か電話を済ませながら、山間で月の写真を撮っている自分を夢想した。