新しい石鹸 2.
 
 
 
■ いや、遠慮と節度というのは、没落する中産階級の師弟には欠かせない特質であろうか。
 それはさておき、その仕事の際に私は接待を受けている。
 営業畑の真面目な部長さんなのだが、その時も私は先生と呼ばれた。
 
 
 
■ 二軒目だったろうか。
 北澤先生、いい店があるんです。と、タクシーに押し込まれ、部長はさっさと前の席に乗る。ついたところは、地方都市によくあるような女の子が数人、カラオケがあってボックスが並んでいるスナックである。
 女の子は昼間眺めると美人ではないが、二軒目だからまあよしとすべきだ。
 ボトルを出してくれ、と私達は水割りを飲んでいる。
 
 
 
■ この写真を見ていてですね、どうしてマンホールが「新しい石鹸」なんだろうと悩んだですよ。
 そして、写真が泣いている。と思った訳です。
 酔いのせいだろうか、普段朴訥な部長がそのように言う。
 私はとてもありがたいと思った。
 理由は言わなくても分かるだろう。
 私は「錆びたナイフ」を歌い、部長は高倉健さんの「唐獅子牡丹」を怒鳴った。
 不忍池へ、歩いて五分の路地であった。