ジャンゴロジー。
 
 
 
■ アラン・ドロンの映画に「ル・ジタン」というものがあった。
 ジプシーに匿ってもらうアウトローを英雄視した映画であるが、BMWの水平対向と、カワサキの三気筒の750が出てくる。もちろん2ストだ。
 十代の頃か、私はその時の皮ジャケットに憧れ、それに似たものを買った。
 オフクロの財布から、いくばくかを盗んだ。
 
 
 
■ 若い友人に津軽三味線を演奏するプロがいる。
 京都の私大を出て大手企業に勤める。数年して、どうしても会社にゆくのが苦痛になり、母親が三味のお師匠さんだった流れから、なんとはなしに三味を手に取る。
 そこから没頭して、数枚のCDを出した。
 腕は旨い。
 
 
 
■ 私は彼に聞いたことがある。
 どうして津軽なんだろうか。彼は漠然とした答えだった。
 辺境からの音楽が、もてはやされすぎているような気がしてならない。
 そこには差別もあり、恨みもあり、それでしか生きてこれなかったひとが持つ、屈託もコクというものもある。
 すぐに売れるのは、すぐに忘れられる。中央に顔を向けるのはやめようぜ。
 と、彼に私は言ってみた。
 いい気なものだと思われはしないかと、二日ばかり後悔していた。